大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和43年(ワ)7035号 判決 1969年1月21日

原告

福岡県筑紫郡太宰府町白川

田口精一

被告

東京都中央区京橋一丁目四番地

麒麟麦酒株式会社

右代表者代表取締役

時国益夫

右訴訟代理人弁護士

日沖憲郎ほか五名

右当事者間の株主総会決議取消請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする

事実

一、請求の趣旨

昭和四三年三月二五日開催された被告会社の株主総会における、山内正治、田実渉、堀野健一、梅田康生、城殿鎮治、八代豊彦を取締役に選任する旨の決議はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする

二、請求の趣旨に対する被告の答弁

主文同旨。

三、請求の原因

(一)原告は被告会社の株式一五〇株を有する株主である。

(二)昭和四三年三月二五日開催された被告会社の株主総会において請求の趣旨記載の決議がなされた。

(三)しかし、右決議は次のとおり取消原因のある違法なものであるから、取消されるべきである。

1  被告会社の発行済株式の総数は四六〇、二九〇、六〇〇株であり、被告会社の定款第一八条但書によれば取締役選任決議の定足数は発行済株式総数の三分の一以上にあたる株式を有する株主とされているから、本件決議の定足数は一五三、四三〇、二〇〇株を有する株主である。

2  本件株主総会には合計一七、八四七、二一六株を有する株主一三五名が出席し、合計二四〇、六二六、一六六株を有する株主二三、九九八名が委任状を提出したが、このうち二一八、八一四、三〇二株分の委任状には受任者の氏名が補充されていなかったにも拘らず、訴外中本光夫、同畠山保雄、同久野盈雄はこれを所持してその議決権を代理行使した。

3  受任者の氏名が補充されていない委任状は、株主としての議決権を代理行使すべき代理人を特定することができないから、無効の委任状というべきである。そうすると、本件決議に適法に参加した株主の株式数は合計三九、六五九、○八〇株であって前記定足数にはるかにみたないものであるから、本件決議は定足数に関する定款の規定に違反する違法なものといわねばならない。

(四)  よって、本件決議を取消す旨の判決を求める。

四、請求原因に対する被告の答弁

(一)  請求原因第(一)項を認める。

(二)同第(二)項を認める。

(三)1  同第(三)項の1を認める。

2  同項の2を認める。

3  同項の3を争う。

理由

一、請求原因第(一)、(二)項、同第(三)項の1、2の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

二、株主総会における議決権の代理行使を委任する委任状の場合、たとえその受任者の氏名が補充されていないいわゆる白紙委任状であっても、その所持者はその委任状の所持自体によって受任者たる資格を主張でき、その者のなした議決権の代理行使は適法かつ有効と解するのが相当である。本件において、訴外中本光夫、同畠山保雄、同久野盈雄の三名が受任者の氏名の補充されていない白紙委任状全部を所持してその議決権を代理行使したことは当事者間に争いがないから、本件決議には原告の主張する違法はないものというべきである。

三、よって、原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例